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第Ⅱ相臨床試験計画の公開版の先行発明の適格性と認定範囲
(特許法院2020年2月7日宣告2019ホ4147判決)

1. 争点
アメリカ食品医薬品局(FDA)の臨床情報公開ウェブサイトに掲載された「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」が本件出願発明に対する新規性及び進歩性の判断の基礎とすることができる先行発明としての適格性を有するか否かが争点となった。また、「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」が先行発明として認められる範囲についても争点となった。

2. 特許法院の判断
ア. 第Ⅱ相臨床試験計画の公開版の先行発明の適格性
特許法院は次のような理由で、「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」が新規性及び進歩性の判断のための対比対象となり得る先行発明に該当すると判断した。

まず、「HER2陽性乳がん患者にハーセプチン及び化学療法と併用するペルツズマブに関する研究」(A Study of Pertuzumab in Combination With Herceptin and Chemotherapy in Patients With HER2-Positive Breast Cancer)という題目の「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」は、本件出願発明の優先権主張日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(特許法第29条第1項第2号)に該当する。しかし、「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」は、初期段階のHER2陽性乳がん患者にドセタキセル及びカルボプラチンと共に6周期のペルツズマブとハーセプチンの併用療法を実施する場合の耐薬性、安全性及び効能を評価するためのものである。よって、「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」に開示された具体的な内容は、実施予定である臨床試験の規模や投薬計画等に過ぎず、その投与結果に関する記載はない。

すなわち、医薬用途発明の明細書の記載要件に関する大法院2001フ65判決(2001年11月30日宣告)等に基づけば、先行発明である「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」は、初期段階のHER2陽性乳がん患者におけるネオアジュバント療法という医薬用途発明として薬理効果を確認することができる具体的な記載がないという点で、未完成発明に該当するとみる余地がある。しかし、未完成発明であっても、通常の技術者が技術常識又は経験則によって容易に技術内容を把握できる範囲内では先行発明となり得るところ(大法院2006年3月24日宣告2004フ2307判決等)、本件の「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」に接した通常の技術者は、それぞれの安全性及び有効性が既に確認された4種の個別抗がん剤(ハーセプチン、ドセタキセ ル、カルボプラチン、ペルツズマブ)を組合せてネオアジュバント療法で投与する場合、その併用療法の効果の確認は、第Ⅱ相臨床試験を通じてなされるのであり、第Ⅱ相臨床試験が今後進行される予定であるという点を認識することができるはずである。したがって、このような技術範囲内で未完成発明であっても、先行発明となり得る。

イ. 通常の技術者の技術水準
薬学又は医薬関連分野の修士号取得者で、抗がん剤関連研究分野で3年程度従事した者を基準とする(当事者間に争いなし)。

ウ. 本件の新規性及び進歩性の判断
本件出願発明の請求項1はペルツズマブ、トラツズマブ及びカルボプラチン基盤化学療法を含み、このとき、カルボプラチン基盤化学療法はドセタキセル及びカルボプラチンを含み(構成要素1)、患者の初期HER2陽性乳がんのネオアジュバント(neoadjuvant)療法に使用するための製薬調合物(構成要素2)に関するものである。

(1) 新規性の判断
上記「構成要素2」は、製薬調合物の医薬用途を限定したもので、先行発明には、研究目的として、「初期段階のHER2陽性乳がん患者を対象にネオアジュバント療法の耐薬性、安全性及び効能を評価する」と記載されている。しかし、医薬用途と関連して、こうした記載は、医薬用途に効果があるか今後確認するということに過ぎず、通常の技術者が医薬用途と関連した薬理効果を客観的に確認することができる程度に具体的に開示しているといえないと判断し、先行発明には、本件出願発明の請求項1の医薬用途が具体的に記載されていないという点で、差異が認められるから、本件出願発明の請求項1は、先行発明に基づき新規性が否定されないと判示した。

(2) 進歩性の判断
また、先行発明は、本件出願発明の請求項1に開示されている4種の抗がん剤の組合せで臨床試験を実施するという計画に過ぎないため、臨床試験の実施によりいかなる薬理効果が確認されたかについては定性的な内容さえも記載されていない。

通常の技術者の側面から異なる2つの薬物が投与されたときに薬理効果が上昇するかどうかは容易に予測できないところ、本件出願発明に提示された4種の抗がん剤がそれぞれ抗がん剤として効果があるという事実が優先権主張日前に公知となっていたという事情だけでは、これらを組合せて投与したとき、これを単独で投与したときよりも上昇した薬理効果を奏するかを通常の技術者が容易に予測できると断定することはできない。したがって、本件出願発明の薬理効果は、先行発明から予測できない顕著なもので、進歩性が否定されない。

3. 本判決の意義
本判決は、「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」が、医薬用途の観点から薬効を具体的に記載していないため「未完成発明」に該当するとしても、通常の技術者が把握できる範囲内では新規性及び進歩性の判断のための先行発明として認めた点で、意味のある判決である。

だが、先行発明である「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」が、本件出願発明と実質的に同一の4種の有効成分の組合せで第Ⅱ相臨床試験を実施する予定であることを記載したとしても、通常の技術者の技術常識や経験則を考慮するとき、上記記載だけで4種の有効成分がいかなる薬理効果を有するか容易に予測できないとして、「第Ⅱ相臨床試験計画の公開版」について先行発明の適格性を認めながらも、その認定範囲においては「第Ⅱ相の臨床試験」と区別して制限的に解釈している点で、意味のある判決である。
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