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職権補正範囲の拡大


1. 序論

特許決定時に審査官が職権により補正する従来の職権補正制度では、些細な拒絶理由であっても職権補正が不可能で、こうしたことから同制度の活用度・実効性が低下していた。特に、最後の意見提出通知や拒絶決定に対する補正において、明らかに誤って記載された内容であるものの拒絶理由が誤って含まれれば、その補正は却下され、結局、拒絶決定される問題が存在していた。
こうした問題を解決するために、出願人が職権補正に同意しなければ特許決定を取り消すという条件で、些細な誤字脱字以外にも、拒絶理由に該当する記載不備も明らかに誤って記載された場合、審査官が職権補正をすることができるよう2017年3月から職権補正範囲が拡大された。

2. 職権補正が可能な事項

明細書、図面又は要約書に記載された内容が「明らかに誤っている場合」とは、通常の技術者がその記載が誤っているという事実を容易に認識することができ、明細書等の記載、意見書及び出願当時の技術常識を参酌して出願人の当初の意図が明確に分かるためその補正がどのように行われるのかを容易に予測することができる場合を意味する。
職権補正の対象は、国語標準用語又は正書法上の単なる誤字、脱字又は図面符号の不一致、出願人の当初の意図が明確に分かる記載不備等で、具体的な例は次の通りである。但し、次のような場合であっても、出願人の意図が明確に把握できなければ、職権補正の対象とはならない。
- 国文法に反する誤字、国文法上解釈が分明な脱字、繰り返された記載
- 参照符号の不一致
- 図面番号や図面符号、代表図の誤記
- 明細書上の発明の名称が願書と一致しない場合
- 削除された請求項を引用する場合
- 従属項であるにもかかわらず引用する請求項と末尾が異なる場合
- 補正により従属項が引用する請求項に併合されたにもかかわらず従属項を削除していない場合
- 同一の構成を二以上の用語を使用して指す場合
- 請求項を誤って引用したことが明白な場合
- 文言的に同一の請求項を重複して記載する場合
- 引用される項の番号を択一的に記載していない場合

3. 職権補正手続

職権補正をしようとする審査官は、職権補正事項を特許決定謄本とともに出願人に知らせなければならない。
出願人は、職権補正事項の全部又は一部を受け容れることができないときは、特許料を納付するまでに意見書を提出して審査官の職権補正通知に対して職権補正事項別に取捨選択をすることができます。
出願人が意見書を提出した場合、意見書が提出された当該職権補正事項の全部又は一部は初めからなかったものとみなされる。この場合、その特許決定もともに取り消されたものとみなし、審査官は再度審査することになる。但し、要約書に関する職権補正事項の全部又は一部のみ初めからなかったものとみなす場合は、特許決定が取り消されたものとみなさない。


4. 職権補正不受容による審査手続

出願人が職権補正事項の全部又は一部を受け容れることができない旨意見書を提出した場合、審査官は再度審査することになる。再度審査した結果、拒絶理由を発見しなかった場合、審査官は特許決定をしなければならない。
一方、再度審査した結果、拒絶理由を発見した場合、審査官は出願人に意見提出の機会を付与しなければならない。このとき、その拒絶理由が職権補正の前に既に通知した拒絶理由であっても、再度通知しなければならない。但し、その拒絶理由が出願人が受け容れない職権補正事項に該当し、既に通知された拒絶理由であれば、直ちに拒絶決定をすることができる。

5. 結論

職権補正範囲の拡大により、些細な誤りで特許登録が遅れたり、特許拒絶されたりする場合が最小化されることが予想される。また、不必要なオフィスアクションを減らすことができるので、コスト削減の効果も期待される。
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