Central International Law Firm
Home > ニュース・資料 > アイピー・プロテクション・チップス - パテント君
「法院の資料提出命令に対する不誠実な履行の損害額算定への影響」に関する特許法院事例(特許法院2024年1月25日宣告2022ナ1449判決)

1.事案
原告は特許侵害訴訟において、侵害による損害額の算定に必要な資料の提出命令を申請したが、被告は資料提出命令に不誠実に応じた。
具体的には、原告は第一審において、侵害品の生産量、販売量及び売上額、営業利益率等が分かる文書の提出命令を申請し、第一審法院は被告に対し、文書提出命令を下した。よって被告は、侵害品を納品するとともに作成した見積書と税金計算書を提出したが、これらの見積書と税金計算書には譲渡数量、単位、単価等の細部項目が隠ぺい処理され、これにより被告が納品した侵害品の譲渡数量さえも把握できなかった。
また被告は、第一審法院の第二次文書提出命令にも同じように応じた。
一方、原告は控訴審である第二審法院では、第一審で提出した同一の資料を提出し、原告はかかる侵害品の生産量、販売量及び売上額、営業利益率等を確認することができる文書提出命令はさらに申請しなかった。
そこで、被告が文書提出命令に対し不誠実に履行した場合に原告の損害額証明責任が緩和され得るのか特許法第132条と関連して考察するとともに、原告の損害賠償額はいかに算定されるのが合理的なのか特許法第128条と関連して考察したい。

2.資料提出及び損害額算定に関する特許法規定
(1)資料提出に関連する特許法第132条
1)第1項:法院は特許侵害訴訟において当事者の申請により相手方に侵害の証明又は侵害による損害額の算定に必要な資料の提出を命ずることができる。

2)第4項:当事者が正当な理由なく資料提出命令に従わないときは、法院は資料の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。

3)第5項:第4項に該当する場合、資料の提出を申請した当事者が資料の記載に関して具体的に主張するのに著しく困難な事情があり、資料で証明すべき事実を他の証拠で証明することを期待することも難しいときは、法院はその当事者が資料の記載により証明しようとする事実に関する主張を真実と認めることができる。

(2)損害額算定に関する特許法第128条
1)第1項:特許権者は故意又は過失で自己の特許権を侵害した者に対して侵害により受けた損害の賠償を請求することができる。


2)第2項、第4項、及び第5項:損害額の算定方法として、特許権者の逸失利益(lost profits)、侵害者が侵害行為で得た利益額及び特許発明の実施について合理的に受けることができる金額を規定している。

3)第7項:損害額を証明するために必要な事実を証明することが当該事実の性質上極めて困難な場合は、弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づいて、相当な損害額を認定することができる。

3.特許法院の判断
(1)認定事実
第二審法院は、原告の全体売上に対する全体売上利益率及び被告の全体売上に対する全体売上利益率と、被告の侵害品の売上額を事実と認める。

(2)資料提出命令に関する特許法第132条第4項及び第5項適用の可否判断
原告は、被告が不誠実に資料を提出したので、特許法第132条第4項及び第5項により原告が主張する被告の売上利益率は真実と認められるべきであると主張した。具体的には、原告は、原告の全体売上額に対する全体売上利益率が被告の侵害品の売上利益率に該当すると主張した。
第二審法院は、特許法第132条第4項及び第5項適用の可否について明示的判断をしなかったが、原告の主張を受け入れなかったという点で、特許法第132条第4項及び第5項を適用しなかったものと判断される。その理由として、ⅰ)原告は、侵害関連製品のみに対する売上利益率ではなく、原告販売製品全体に対する売上利益を提示しているため、被告の侵害品に対する売上利益率も営業秘密に該当し、正当な理由なく提出しなかったとはみがたく、ⅱ)原告の主張をそのまま認めるなら、原告の全体売上利益率が被告の全体売上利益率の二倍に該当する点で、被告にとっては過度の不利益が生じる恐れがあり、ⅲ)被告の侵害品の売上利益率に対する原告の立証責任が過度に緩和され得る恐れがあるという点が推測される。

(3)逸失利益(lost profits)算定に関する特許法第128条第2項適用の可否判断
原告は、特許法第128条第2項による逸失利益を請求するとともに、その逸失利益の金額は、被告の侵害品売上額に、原告の全体売上利益率を乗じる方式で算定されると主張した。
第二審法院は、逸失利益の算定には被告の侵害品の譲渡数量に対する証明が必要であるが、原告としてはこれに対する証明が極めて困難であり、他に被告の譲渡数量を証明する証拠がないから、特許法第128条第2項による逸失利益の算定方法により推定することができないと判示した。

(4)特許法第128条第7項による損害額の算定時における資料提出命令に対する不誠実な遂行による効果
第二審法院は、被告の侵害行為により原告に損害が発生したことは認められるが、その損害額を証明するために必要な事実を証明することが当該事実の性質上極めて困難な場合に該当するから、特許法第128条第7項により弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づいて、相当な損害額を認めなければならないと判示した。具体的には、被告が侵害で得た利益額を原告の損害額と推定する態度をとっている。特に、原告が第二審法院に文書提出命令を申請しなかったが、被告が第一審法院の文書提出命令に対して不誠実に応じたという点と、被告が第二審法院にも第一審法院の文書提出命令に提出した文書を提出したという点を考慮すると、原告が第二審法院に文書提出命令をさらに申請したとしても、被告がこれに対して誠実に履行したであろうとは思われない。このように、被告が文書提出命令を誠実に履行しなかったため、損害額の算定に必要な基礎事実を十分に把握できないようにしたという点は、損害額を算定するうえで、重要な要素と判断した。よって、被告が侵害で得たものと思われる売上に対する売上利益率を、被告の全体売上利益率ではなく、これよりは原告の全体売上利益率に比重を置いて上方修正(数値で明示的に提示されていないが、原告と被告の全体売上利益率を算術平均した値に対応するものと思われる)したものと把握される。このように、被告の売上利益率が上方修正された理由は、原告の全体売上利益率が被告の全体売上利益率の二倍程度になる点と、原告は売上額の大部分が侵害品関連製品において発生するが、被告は侵害品の販売比率が全体の売上規模に対して17%と小さい点を考慮したためである。

4.示唆点
損害額の証明責任は原則として特許権者にあるが、特許法第132条が適用されると、この証明責任が侵害者に転換される効果が発生する。法院は、このような証明責任の転換には、侵害者の過度の不利益の可能性を考慮して厳格な基準を適用するものと思われ、仮にこのような効果が発生しないとしても、損害額を特許権者に有利に算定し、非協力的な侵害者に一定程度の制裁を加えることができるという点がわかる。
したがって、特許権者であれ、侵害者であれ、資料提出命令による不利益を避けつつ公正な判決を受けるためには、法院の資料提出命令を忠実に履行することが望ましい。

前へ |  発明者の記載に関する改正
次へ |  IP Protection Tipsのご案内
|

COPYRIGHTⓒ2011 CENTRAL Intellectual Property & Law. ALL RIGHTS RESERVED
Korean 82-2-767-1100 English 82-2-767-1200 Japanese 82-2-767-1300 Emergency 82-2-767-1111 FAX 82-2-767- 1234 E-MAIL ip@cipl.kr
住所: ソウル特別市鍾路区世宗大路149 光化門ビル14階 CENTRAL INTELLECTUAL PROPERTY & LAW