懲罰的損害賠償額の引き上げ
特許権又は専用実施権を故意に侵害した場合は損害賠償額を3倍まで定めることができるとする規定は、特許権と営業秘密侵害行為に対して2019年7月9日に導入され、アイデア奪取行為に対しては2021年4月21日に適用された。
懲罰的損害賠償規定が施行されて5年ほど経つが、釜山地方法院2023年10月4日宣告2023カハップ42160判決において懲罰的損害賠償規定が適用されたことが知られている。家庭式調理器具を製造・販売する中小企業が株式会社ハッピーコールを相手取り「パッキングが具備された調理容器用蓋」関連特許に対して侵害訴訟を提起したが、特許権侵害中止を要請した事実、韓国公正取引調停院に調停申請した事実、被告が侵害行為を続けて得た売上額を考慮し、被告の利益を権利者の損害と推定する特許法第128条第4項を適用した損害額9億5千3百万ウォンに加えて、懲罰的損害賠償規定による損害額5千3百万ウォン(=懲罰的損害賠償規定が適用される時期の間の被告利益額の50%)が認定された事例である。
2016年~2020年特許権侵害損害賠償請求訴訟判決278件で原告の認容額の分布に関連して、原告の損害賠償請求が全部棄却された197件を除いたとき、1千万ウォン以上5千万ウォン未満の金額が認容された場合が20件で最も多く、次に1億ウォン以上3億ウォン未満の金額が認容された場合が17件となっている。原告の損害賠償請求の認容額の平均は3億4,291万ウォン、中央値は1億ウォンである(出典:特許侵害の判例分析を通じた中小ベンチャー企業侵害訴訟対応戦略研究(特許庁、2021年))。ここで、KRW1,000=JPY100で1億ウォンを日本円に換算すると1千万円となる。これは、米国の特許権侵害に対する損害賠償額の中央値65.7億ウォン(1997年~2016年)と比べると非常に少ない水準である。
また、特許権・営業秘密侵害事件やアイデア奪取事件が発生した場合、侵害立証が容易ではなく、侵害を立証したとしても被害額の算定が難しいため侵害者から十分な損害賠償を受けられないという問題が指摘されてきた。
こうした問題に対処するために、懲罰的損害賠償の限度を既存の3倍から5倍に拡大し(今年8月21日から施行)、このような懲罰的損害賠償の限度の拡大により、悪意ある技術流出を防止し被害救済の実効性が確保されることが期待される。 |
|