新規性否定の先行技術が公然と実施されたかどうかに関する大法院判例
1. 事案の概要と争点
ア. 原告補助参加人は2016年1月22日に株式会社LBルセム(以下「LBルセム」という)との間で先行発明4を納品・設置することとする設備購入契約(以下「本件契約」という)を締結し、これに基づき2016年1月29日にLBルセムに先行発明4を納品した。
イ. 数日後、原告補助参加人の職員、被告引受参加人等はLBルセムに集まり、LBルセム関係者立会のもと先行発明4を試運転(以下「本件試運転」という)し、原告補助参加人は試運転当時、LBルセムとの協議通りに製品改良を行った後、2017年6月頃に最終完成品を納品した。本件試運転には、原告補助参加人と被告引受参加人をはじめ、LBルセムの許諾を受けた人たちが参加したものとみられる。
ウ. 一方、先行発明4に係る「テスターが可変となるチップ検査装置」という名称の本件特許発明は、2016年3月24日付にて出願され、2017年12月15日付にて特許として登録され、2020年2月27日付にて被告引受参加人の名義で特許権全部移転登録がなされた。
エ. 本件契約は、「製品の設置完了時」を、LBルセムが指定した場所に目的物を設置し、LBルセム立会のもと試運転を行い、LBルセムが試運転合格の確認をする時点と定め(第1条第3項)、LBルセムから合格確認を取れない場合、原告補助参加人の責任と費用で製品を再製作又は交換し、再検査を受けて合格しなければならず、これによる納品及び設置完了の遅延は原告補助参加人の責任とする(第2条)ようにしている。また、本件契約では、「LBルセムと原告補助参加人は、事前の書面の同意なしに、本契約の締結及びその履行に関する事項を第三者に漏洩することができない」と規定(第13条第1項)している。
本事案の争点は、(1)特許発明の出願前契約に基づき最初に納品した先行発明4の意味、(2)特許発明の出願前契約に基づき納品し試運転した製品について秘密保持義務が認められるかどうか、(3)先行発明4が公然実施されたものとみることができるかどうか、である。
2. 関連基本法理
韓国特許法第29条第1項第1号は、産業上利用することができる発明であっても、その発明が特許出願前に国内又は国外において公知された若しくは公然と実施された発明に該当する場合には、特許を受けることができないように規定している。ここで「公知された」とは、必ずしも不特定多数人に認識されていた必要はなくても、少なくとも不特定多数人が認識し得る状態に置かれたことを意味し(大法院2002年6月14日宣告2000フ1238判決等参照)、「公然と実施された」とは、発明の内容が、秘密保持約定等の制限がない状態で譲渡等の方法で使用され、不特定多数人が認識し得る状態に置かれたことを意味する(大法院2012年4月26日宣告2011フ4011判決参照)。
3. 特許法院(原審)判決要旨
原審は、原告補助参加人とLBルセムとの間で先行発明4に関する秘密保持に関する約定を締結したとか、LBルセムに信義則上秘密保持義務が存在するとみるに足る事情がないから、先行発明4は、本件特許発明の出願前にLBルセムに納品され、その事業場に設置・試運転されることで公然と実施されたという理由で、本件特許発明の請求項1乃至4は、先行発明4に基づき新規性が否定され、その特許登録が無効とされるべきであると判断した。
4. 大法院判決要旨
大法院は次のように説示し、原審を破棄差戻した。
(1)最初に納品した先行発明4は試製品としての意味を持つだけであり、その後の協議による製品改良を経て最終納品がなされたときにはじめて本件契約の履行が完了したとみることができ、(2)また、LBルセムと原告補助参加人はこうした契約履行の完了という共同の目的のもとに互いに協力する関係において、第三者への契約履行事項の漏洩禁止義務を負っており、(3)さらに、試運転当時、LBルセムによって制限された人員のみ参加する等、実際に秘密保持のための措置がなされたとみるに足る状況もうかがえるという点を考慮するとき、(4)先行発明4は本件特許発明の出願前に国内又は国外において公然と実施されたものではないとみる余地がある。
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