特許審判における調停連係制度と適時提出主義制度の導入
特許審判院は2021年11月18日から、審判段階で当事者間の合意を通じて審判を終結できる調停連係制度と、審判初期に主張や証拠を集中的に提出する適時提出主義制度を施行している。
特許審判院は紛争の早期解決に向けて、紛争期間が長期化するほど特に資金力が不足する中小・ベンチャー企業に訴訟中心の知財権紛争が大きな負担となることを主な解決課題として認識している。
・調停連係制度
訴訟中心の知財権紛争は高コスト・長期間を要し、企業(特に中小企業等)に大きな負担となるにもかかわらず、紛争当事者の申請によってのみ産業財産権紛争調停委員会(以下「調停委員会」)の調停手続が行われていた。よって、調停手続の実効性が少ないため、審判長が必要な場合、両当事者の同意を得て審判事件を調停委員会に回付できるように法的根拠を設けたわけだ。
審判長は審理中必要な場合、両当事者の同意を得て審判事件を調停委員会に回付することができ(特許法第164条の2)、調停手続が完了するまで審判は中止され、調停委員会に回付された審判事件は、回付されたときから3か月以内に両当事者間の合意により迅速な終結が可能である。当事者間の調停成立時、法院の和解と同じ効力が発生し、審判請求は取り下げられたものとみなし、調停不成立時、審理再開後に迅速審判に変更し審理を迅速に進める。
この調停連係制度は、紛争の長期化を防ぎ、不必要な訴訟費用を減らすことができ、資金力不足の個人や中小企業の紛争解決に大きな役割を果たすことが期待される。
・適時提出主義制度
特許審判段階でも適時提出主義制度の導入により、審判初期に当事者が主張や証拠を集中的に提出するよう誘導できることになった。
これまでは、特許登録に関する処分の正当性、登録された権利の無効可否、無権利者の行為が権利範囲に属するか否か等に関する紛争に関する1次審判を、特許の有する技術的専門性を考慮し、法院ではなく行政機関である特許審判院にて判断する特許審判として処理するので、民事訴訟法の手続にそのまま従わず、適時提出主義が概ね認められなかった。
特許審判院は、審判手続において主張や証拠の提出時期に制限がないため審理が遅延する問題が頻繁に発生していることから、民事訴訟法の適時提出主義規定(民事訴訟法第146条、第147条、及び第149条)を準用して提出期限を制限し、遅れて提出された証拠等は却下できるようにした。具体的には、特許審判の当事者は、主張や証拠を審判長の要求する時期より故意または重過失により遅れて提出する場合、遅れて提出された証拠等を却下し審理に反映されない不利益を受けることになる。
特許審判の審判処理期間が2020年に2018年と比べ4か月程度短縮されたものの、2018年の審判処理期間が平均16か月を超えることもあった。一方、2020年基準の民事訴訟の1審の平均処理期間が、単独事件は平均7か月を少し超え、合意事件も平均10か月程度という状況だ。民事訴訟の平均処理期間が特許審判の審判処理期間に比べて早い理由が、民事訴訟法院の適時提出主義のためであると正確に数値化して検討することは難しいが、特許審判院が民事訴訟法を準用する適時提出主義を導入することで特許審判の遅延がより防止されることが期待される。
・コメント
この調停連係制度と適時提出主義制度は、2021年11月18日から審判が進行中の事件にも適用される。上記にて考察したように、審判-調停連係制度と適時提出主義制度は、審判段階で紛争を迅速かつ正確に解決するための装置であり、これらの制度は、審判事件の早期終結、そして個人・中小企業・ベンチャー企業の知財権紛争の解決に大きく寄与するものと考える。
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